五藤理事長が監修した記事が「Yahooニュース」に掲載されました。
早くも師走。そろそろ、実家への帰省を計画し始めた読者も多いはず。しかし、久々に会った両親が見知らぬ薬を服用していたら、注意が必要だ。“薬漬け”の未来が待っているかもしれないのだから――。
【写真あり】処方カスケードが始まる危ない薬10種類
「70代後半の男性患者Aさんが来院されました。Aさんは最近、足のむくみがひどく、食欲がわかないそうです。しかし、別の病院でもらった薬を真面目に飲んでいるのに、症状がいっこうに改善されないばかりか、ますますひどくなるというのです。Aさんのお薬手帳を開いてびっくり。不調の原因は、処方された“薬”そのものにあったのです」
と語るのは、函館稜北病院総合診療科の舛森悠医師だ。
「なんとAさんは、3つの病院から合計15種類もの薬を処方され、一日に内服する薬の量は30錠を超えていました。その内容はこうです。まず、Aさんは高血圧だったため、降圧剤が処方されていました。降圧剤は、副作用で足がむくみやすいのです。そのため、今度はむくみを改善させるための利尿薬が処方されました。さらに、その利尿薬の副作用でミネラルのバランスが崩れてカリウム不足になり、カリウムを補充する薬が追加されていたのです。ある薬の副作用に対し、新たな薬が処方され、また別の副作用が出て、それに対してさらに新たに薬が処方される……。この“服薬連鎖地獄”を『処方カスケード』と呼びます」(舛森医師)
結局Aさんは、舛森医師の説得を受けて減薬できた。 「ほかの病院と連携しながら、一日に服用する薬を10錠まで減らしました。その結果、むくみも食欲も嘘のように改善しました」(舛森医師)
処方カスケードに陥った末に、“人格”まで変わってしまうケースもある。医療法人社団NALU理事長の尾崎聡医師はこう語る。
「私の脳神経クリニックでは、認知機能障害からくる幻覚、妄想、興奮、不穏、徘徊、焦燥、暴言、抑うつなどが悪化した患者さんをよく診ますが、悪化の原因が薬だと思われるケースは珍しくありません。ある日、最近立ち上がれないことが増えたと悩む患者さんが来院されました。それまでの経過をよく調べると、認知症→抗認知症薬→副作用による易怒(いど)性悪化→神経の高ぶりを抑える漢方→副作用による低カリウム血症……といった具合に、薬が増えていったことがわかりました。抗認知症薬の副作用で典型的なのが、怒りっぽくなる易怒性の悪化です。さらに、神経の高ぶりを抑える漢方薬は、低カリウム血症を引き起こすことがありますが、漢方薬なので副作用があると考えない人が多いんです。この患者さんは、抗認知症薬を減らし、薬の連鎖を止めることができました」
さらに身近な薬で“連鎖地獄”に陥ることもある。 「胃薬のH2ブロッカーの副作用で、せん妄が出ることがあります。幻聴や幻視、落ち着きがないなどの症状が出て、認知症や精神疾患と誤診され、状態が悪化してしまうケースがあります」(尾崎医師)
そこで本誌は、複数の医師に取材し、処方カスケードの入口になりやすい薬を10種類にまとめた。どれも副作用を意識せず、日常的に服用しうる薬ばかりだ。
「一部の咳止め薬や鎮痛剤には、便秘になる副作用があります。そこで下剤が処方され、その下剤によって下痢となり、また下痢止めを飲み便秘になる……。というケースは多いです」
(五良会クリニック白金高輪理事長、五藤良将医師)
ニキビ治療など、若い世代でも“連鎖”は起こり得る。
「『目まいがする』と話す患者さんを問診すると、ニキビ治療のためにミノサイクリンという抗生物質を飲んでいることがわかりました。ミノサイクリンには目まいを引き起こす副作用があるため、ほかの抗生物質に代えたところ、目まいがなくなり、目まいを抑える薬も止めることができました」(医療法人社団FAM理事長、麹町皮ふ科・形成外科クリニック名誉院長、苅部淳医師)
処方カスケードが起きる原因のほとんどは、医師が患者の服用するほかの薬を把握していないからだ。 「ある症状の原因が病気なのか、薬の副作用なのかを判断してもらうために、診察の際は、市販薬を含め日ごろ飲んでいる薬をすべて医師に伝えてほしいです。また、些細な症状や病歴もしっかり伝えることが大事です」(尾崎医師)
さらに、患者本人が減薬への意識を持つ必要がある。 「医師のなかには、薬の“足し算”は得意でも、副作用を疑って“引き算”するのが苦手な人がいますからね。
しかし、服用する薬が6種類以上になると、副作用のリスクが明らかに高まるという報告があります。薬には必ずデメリットがあることを忘れないでほしいです」(舛森医師)
年末はチェックシートを参考に、実家の“薬箱”を確認しよう
取材/文・吉澤恵理(医療ジャーナリスト)
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